税理士として独立開業しても、必ずしも成功するわけではありません。さまざまな原因により、廃業に追い込まれてしまうケースもあります。
しかし、独立開業が成功すれば、理想とする働き方ができたり、収入アップが実現できたりと、多くのメリットが得られる可能性があります。
本記事では、税理士の独立開業で失敗・後悔する主な原因や、成功のためのポイントについて解説します。
目次
税理士の独立開業で失敗や後悔する原因8個
独立開業で失敗に陥りやすい代表的なパターンを、ポイント別に紹介します。
1. 新規顧客が増えなかった
勤務税理士の時は、自分で営業する必要がなく、税理士としての業務に集中できたという方も多いでしょう。
しかし、独立開業した場合には、税理士業務の傍ら営業や集客を行わなくてはいけません。顧客を獲得できないと、十分な売上を上げることができず、税理士事務所を安定して経営することが難しいでしょう。
⇒参考:税理士の集客方法14個
2. 顧客単価が低すぎた
新規顧客を獲得しようとして、料金を低く設定しすぎるケースです。
顧客単価を低くしすぎてしまうと、たくさんの業務をこなして売上を稼ぐ必要が生じます。付加価値を生み出す仕事への時間を確保しにくくなり、税理士事務所を無理なく長期的に経営することが難しくなります。
その忙しさから、仕組みを見直す時間や新規顧客への営業を行う時間がなかなか取れず、負の連鎖から抜け出せないという方もいます。
3. 業務が多すぎて疲弊した
税理士として独立開業すると、自分がこなす業務がそのまま売上となるため、つい業務を過剰に引き受けてしまうことがあります。
事務スタッフがいれば何かとサポートしてくれますが、独立開業したてでスタッフを確保していない場合は、自分ですべての業務をこなす必要があります。体力的・精神的に疲れてしまい、廃業を検討する税理士も多く存在します。
4. 紹介してもらえなかった
友人や知人、過去の職場の同僚などの紹介で新規顧客を獲得できると思っていたのにもかかわらず、想定していたよりも紹介してもらえなかったケースです。
初めのうちは多少紹介してもらえたとしても、永続的に顧客を紹介してもらうことは難しいでしょう。自分で集客できる環境を整えておかないと、紹介してもらえない時に経営に支障が出ます。
5. 業務ミスで顧客とトラブルになった
税理士は業務にミスが生じた時の責任が大きく、自分のミスによって顧客に損害が発生することもあります。中には、損害賠償を求めて顧客から訴えられてしまうケースもあるでしょう。
損害が高額であり、かつ税理士が負担しなくてはいけないケースであれば、その支払いが経営を圧迫します。
最悪の場合、税理士資格を剥奪されたり、借金を抱えたりすることもあるため、慎重なリスク管理が求められると言えます。
6. マネジメントに失敗した
独立開業後にスタッフを雇う場合には、スタッフを管理し、育成する必要が生じます。しかし、早期離職や人間関係の悪化などが起こり、スタッフのマネジメントに苦労することも少なくありません。
特に、開業したての税理士事務所は不安定で狭い環境となりやすく、スタッフの不満が出やすいと考えられます。マネジメントに失敗すれば、教育や採用に必要以上のコストがかかり、本来の業務に支障をきたすこともあるでしょう。
7. 色々な営業にだまされた
独立開業すると、DMがたくさん届いたり、電話帳やホームページから電話番号を知られ、営業電話がかかってきたりします。
電話の場合は集中力が途切れ、時間を無駄にするため、営業電話に悩まされているという税理士も多いでしょう。
中には、お金を巻き上げることを目的に「経営者にインタビューをしている」「本を出版してほしい」など、魅力的な謳い文句で営業を行う人もいます。冷静な判断ができないと、資金を無駄にしてしまうことになりかねません。
8. 最新の状況についていけなかった
税理士は、法改正や景気・業界の動向など、さまざまな情報をキャッチする必要があります。社会の変化にあわせて常に自己研鑽を行う必要があり、疲労やプレッシャーに悩まされるという方も少なくありません。
また、独立開業したての頃はよくても、年を重ねて体力が衰えてきた時に「情報を収集し続けることに疲れてしまった」と感じるケースも見受けられます。
税理士事務所の廃業率
6%程度と書かれていることがありますが、個人事務所も含まれるため、正確な廃業率の統計は難しいところです。廃業には業績不振だけでなく、自ら引退している場合も含まれるため、余計に正確な算出は難しくなります。
参考になるデータとして事務所数の推移は以下の通りです。
税理士数の増加と合わせて考えると、廃業率はそこまで高くないものの競争は厳しくなっていると考えられます。
公認会計士事務所・ 税理士事務所数 | 税理士事務所数 | |
2012年(平成24年) | 31,222 | 27,945 |
2016年(平成28年) | 31,208 | 28,404 |
2021年(令和3年) | 30,479 | 27,958 |
参照:総務省統計局
税理士業界の変化
税理士はその専門性から、市場価値の高い職業と言えます。しかし、税理士の増加やクラウド型会計ソフトの登場により、変化を受け入れ、時代に沿った対応が求められていることも事実です。
税理士の登録者数は緩やかに増加する傾向にあります。国税庁によると、2015年度には75,643人だった登録者数は、2021年度には80,163人に増えています。
また、クラウド型会計ソフトの登場により、経営者や個人事業主が自ら会計業務を行いやすくなりました。自動で仕訳を行うなど、AIの活用をアピールポイントとしている会計ソフトも多く存在します。
「AIによって税理士が仕事を奪われる」と言われていますが、AIで行える業務は業務の一部分であり、税理士の全ての仕事を代行できるとは考えにくいでしょう。しかし、このような業界の変化を踏まえ、より価値の高い税理士を目指して自己研鑽を続けることは重要と考えられます。
税理士の独立メリット
税理士として独立することで、以下のメリットを得られる可能性があります。
・収入アップが期待できる
・自分の好きな時間に働ける
・自分で仕事内容を選べる
・自分でスタッフを選べる
勤務税理士の給与形態は税理士事務所の規定に沿って決まりますが、独立開業すれば料金プランや顧問件数を自身で決められます。実力や頑張り次第では、勤務税理士時代に比べて高い収入を狙いやすくなるでしょう。
また、働き方を自分で決められることも魅力の1つです。家族との時間を作るために労働時間を調節したり、自分の適性にあわせて営業をかけたりなど、自分で決定できる部分が増えます。ワークライフバランスを保ち、快適に働ける可能性が高まるでしょう。
税理士の独立開業で成功する方法6個
税理士が独立開業を成功させるための方法を紹介します。
1. 経験を積んでスキルをつける
独立開業前に税理士事務所などに勤務し、十分な経験を積みましょう。税理士としてのスキルはもちろん、経営や営業スキルについてもできる範囲で学んでから独立することをおすすめします。
また、勤務税理士として同僚や顧客から信頼を得ることができれば、独立後の顧客獲得にもつながります。
2. 集客の仕組みを作る
独立開業後、どのような仕組みで集客を行うか検討し、環境を整えておきましょう。ホームページを開設して問い合わせを狙ったり、セミナーを開催して見込み顧客にアプローチしたりと、その方法はさまざまです。
自身に適した方法を考え、開業前から準備しておくことで、新規顧客の獲得を目指しましょう。
3. 顧問料を適正にする
独立開業時は早めに顧客を獲得しようと顧問料を安く設定したくなりますが、長期的に考えれば、安すぎる顧問料が疲弊につながる可能性があります。顧問契約は基本的に継続するため、最初の料金設定が肝心です。
顧問料は労働量や自分のスキルに見合った金額を適切に設定しましょう。また「見込み顧客から値切られたから」といった根拠のない理由で値下げすることはやめましょう。
4. 税理士として新しい分野に取り組む
税理士は高齢化が進む傾向にあるため、新しい技術や分野に対応できる税理士がより求められるようになると考えられます。
クラウド型会計ソフトや新しいツールを使いこなせると、より仕事の幅が広がっていくと考えられるでしょう。仮想通貨やNFTなど、新しい分野の税務に対応できることを売りにすることも有効です。
5. 付加価値をつける
AIの進歩により、単純な入力作業は会計ソフトが行う流れが今後ますます加速すると考えられます。そのため、自身の強みや並行して対応できる業務をアピールし、仕事を獲得することも大切です。
例として「クラウド型会計ソフトを利用してオンラインで対応できる」「経理のDX化のサポートができる」などの取り組みが考えられます。
6. 関連事業を作り出す
税理士としての基本的な業務にとらわれず、下記のようなさまざまな事業を行っている税理士事務所や税理士法人も数多くあります。
・コンサルティング業務
・事業承継・M&A
・バックオフィスのアウトソーシングサービス
経営者の味方として横断的に活躍できるようになれば、価値の高い税理士として生き残っていけるでしょう。
まとめ
準備が不十分であれば、新規顧客が獲得できないなど、さまざまな原因から独立開業が失敗に終わってしまいます。
しかし、独立開業に成功すれば、自分が理想とする働き方が叶えられる可能性があります。税理士業界の動向を踏まえ、適切な準備を行うことで、理想的な開業を目指しましょう。