税理士や公認会計士として勤務している人の中には、最終的に独立開業したいと思っている方は多いのではないでしょうか。

しかし、税理士事務所の開業は必ずしも成功するとは限らず、数年後に廃業してしまう事務所があるのも事実です。また、開業にあたって準備すべきことは多く、不安や緊張を感じることもあるでしょう。

そこで本記事では、税理士として独立開業するために必要な準備や開業資金などについて解説します。成功するための具体的な方法についても紹介しますので、ぜひ最後まで見てください。

税理士の独立開業で準備すべきこと4個


税理士として独立開業するにあたって、どのような準備を行えばいいのでしょうか。準備するべきことを流れに沿って見てみましょう。

1. 開業場所を選ぶ

まずは開業の方法について検討する必要があります。事務所を借りる場合は、希望するエリアや家賃の予算を考えましょう。

顧客に事務所まで足を運んでもらう「来所型」か、自分から顧客のもとに赴く「訪問型」かを考慮します。来所型であれば、顧客の移動手段を考えて駅のそばに事務所を構えるといいでしょう。車での移動が一般的な地域であれば、道路や駐車場といった事情を踏まえて検討します。

訪問型であれば、ターゲットとする地域を踏まえて、自分にとって動きやすい場所に事務所を構えます。

自宅を事務所にする場合も同様に、業務の進め方をイメージした上で設備などの準備を進めましょう。

2. 開業資金を用意する

初期費用と毎月の固定費から、準備するべき開業資金の金額を考えましょう。

手元の資金が不足しているのであれば、金融機関から融資を受けて資金を調達することも考えます。制度によっては無担保・無保証などの有利な条件で融資を受けられるものもあるため、各金融機関のホームページなどを参考に比較してみましょう。

融資の申し込みを行うためには、申請書や計画書を作成する必要があります。申し込み後も審査や入金に時間がかかる場合があるということを覚えておきましょう。

なお、開業資金の目安については本記事で後述します。

3. 事業計画を立てる

税理士事務所の方向性や、売上を得る方法などについて検討します。

「経営者の良きパートナーとなる」「起業サポートを行う」など、 顧客に提供する価値は税理士によってさまざまです。どのようなニーズを持つ顧客を獲得したいのかを考え、開業後のビジョンを具体的にしていきます。

顧問契約をして継続的に付き合いを続ける場合、顧問料は「顧客1件あたりの年間(月間)売上 × 顧客数」で年間(月間)の売り上げがわかるため、売上高がイメージしやすいでしょう。

売上高や固定費と照らし合わせ、開業後の資金繰りに問題はなさそうかどうかのシミュレーションもあわせて行います。

4. 戦略を考える

税理士事務所を運営していくためには、税理士としての専門性はもちろん、経営戦略やマネジメントといった視点からも事業を考えていく必要があります。

顧客を獲得する方法や自身の強みを活かす方法などを戦略的に考えていきましょう。 税理士の独立開業についてのセミナーや勉強会などから学べるほか、書籍やインターネット、先輩税理士の経験談などを参考にして学ぶこともできます。

また、職員を雇って規模を拡大したり、自分1人で業務を完結させたりと、すべての方向性を自分で決めることとなります。理想とする働き方を考え、それに応じた戦略を立案することも大切です。

税理士の開業費用の目安

税理士登録や税理士会への入会を行うために、まずは以下の費用を準備します。

・免許登録税:6万円
・登録手数料:5万円
・税理士会の入会費、年会費など:入会する税理士会による

税理士登録には登録免許税と登録手数料を準備し、履歴書や申請書といった書類を提出する必要があります。※参考サイト

税理士会へ入会する場合、支払う初期費用は入会する支部によって異なります。例えば、東京税理士会では入会金4万円、年会費8万1,000円、会館建設費2万円です。※

それ以外にも、事業内容に応じて以下の費用を準備しましょう。

・事務所:開業の方法による
・会計ソフト:5〜10万円
・税務ソフト:10~15万円
・パソコン:10万円程度
・名刺:2,000円程度
・チラシ:3万円程度
・ホームページ:20万円〜

これらの費用はあくまでも目安であり、開業の方法によって必要な費用は大きく変わります。例えば、事務所を賃貸ではなく自宅やレンタルオフィスに設定すれば、毎月の家賃や保証金・仲介手数料などにかかる費用を大幅に抑えることができます。

他にも、チラシやホームページを自作するなどの工夫により開業費用を削減することが可能です。

税理士の独立するメリット

税理士が独立すれば、高い収入が狙える可能性があります。1,000~2,000万円程度の年収が入ることもあり、会計事務所などに勤務するよりも高い水準と言えます。さらに、定年がなく働き続けられることを考えると、生涯年収の面でさらにメリットを感じられるでしょう。

自分が望むスタイルで自由に仕事ができるということもメリットの1つです。業務を行う時間や場所から、契約する顧客の方向性まで、自分で選択することができます。

税理士の独立するデメリット

高い収入や自由度がある反面、責任を自分で背負わなくてはいけないプレッシャーがかかります。顧客からの要望に応じながら同時に経営について考える必要があります。時間帯や曜日にかかわらず、長時間仕事をしなくてはいけないことも出てくるかもしれません。

また、開業税理士の年収にはばらつきがあり、勤務税理士の平均年収と同程度にとどまる場合もあります。「社員として勤務していた頃よりも年収が下がった」というケースも多いことを覚えておきましょう。

税理士の独立開業成功方法とコツ10個


税理士として独立開業する際はやるべきことが多く、日々慌ただしく過ごす方も多くいます。開業前・開業後にどのような行動をとるべきなのか、具体的に解説します。

1. 営業や集客に強くなる

顧客を獲得するために営業や集客を行うことは欠かせません。

営業を行うためには、顧客の課題を引き出すためのヒアリングや、自分なら課題を解決できるというアピールも大切です。中には営業が苦手という方もいるかもしれませんが、税理士の開業とは切り離せないものと捉えましょう。

営業活動を行うことによりビジネスに対する知見が深まり、業務で経営者などと話す時の手助けとなることもあります。より顧客に貢献できる税理士になるために、そのような活動にも積極的に挑戦してみましょう。

2. 事前に市場調査を行う

開業税理士としての売上は顧客数によって大きく左右されます。そのため、見込み顧客が多く競合が少ない営業エリアを調べて選択することで、より成功の確率が高まると言えるでしょう。

例えば、店舗を運営する経営者をターゲットとするのであればお店の多いエリア、不動産オーナーをターゲットとするのであれば住宅の多いエリアといった考え方で決定することが一般的です。

営業エリアを決定した後は、競合となる税理士事務所の調査も行います。税理士の数や料金システムなどについて調べることで、経営戦略を考える際の参考にしましょう。

3. ターゲットと料金設定を考える

ターゲットとしたい顧客と、それに応じた料金設定を考えます。ターゲットの属性や事業規模などによって料金プランが異なるため、まずは主な顧客とするターゲットを決定することが効率的です。

次に同業者のホームページや税理士紹介サイトなどを見て、料金の相場をチェックします。同じようなターゲットを相手にしている税理士の料金を調べることで、料金が決定しやすくなります。

料金を設定する際は、高すぎると契約に至りにくく、安すぎると効率的に売上を上げることが難しくなります。顧問となる際は基本的に契約を継続することとなるため、慎重な料金設定を行いましょう。

4. 人脈づくりを行う

税理士として開業していることを多くの人に知ってもらえれば、思わぬ形で仕事の相談をもらえることがあります。開業時には近隣の税理士事務所に挨拶したり、経営者の集まるセミナーに参加したりして、人脈を構築しましょう。

また、税理士会に所属して開催される研修会などに参加すれば、税理士同士の人脈作りにもなります。情報交換や仕事の悩みの相談ができる機会につながるため、開業時には参加してみるといいでしょう。

税理士仲間から「このような見込み顧客がいるが、自分が忙しいので代わりに対応してもらえないか」などという相談を受けることもあります。人脈を上手に活用して独立開業の成功につなげましょう。

5. 自分の可能な業務量を正確に見積もる

開業税理士は自らの判断で顧客を獲得できる反面、 自分のキャパシティ以上の業務を受けないように心がける必要があります。

特に、開業時は適切な業務量を判断しにくかったり、資金への不安から「できるだけたくさん業務を受けたい」と感じたりと、業務量の見積もりが不安定になりがちです。

開業したての場合は職員を雇うほど業務が安定せず、受注した業務を1人で行わなくてはいけないケースがほとんどです。 また、営業活動や資金繰りといった業務を並行して行うことも考えなくてはいけません。

開業したては無理をしすぎることなく、繁忙期を乗り越えられる程度の業務量を心がけましょう。

6. 人間関係に注意する

開業したばかりの税理士事務所で職員を雇う場合には、不安定さや環境の狭さから、職員の不満が出やすい傾向にあります。 面接時によく話をして、事務所としての方向性をあらかじめ説明しておくことなどにより、リスクの少ない採用を目指しましょう。

素直で変化を受け入れられるタイプの職員を採用するなど、人柄を重視して採用することも有効です。前向きに取り組み、時には業務改善するための提案をしてくれるなど、不安定な開業時期でも乗り越えられそうな人材を採用します。

7. 仕事を無闇に引き受けない

仕事を無闇に引き受けても、自分や職員で捌ける業務量は変わらないため、いずれ無理が生じることになります。

無理をして業務をこなせば1件1件の案件に対応できる時間が減り、顧客に満足してもらえなくなったり、充分なサービスが提供できなくなったりなどの支障が発生します。

1人で税理士事務所を運営する際は、対応が重なった場合や繁忙期、自身の体調不良なども考慮して、余裕を持った業務量を受注する必要があります。職員を採用する場合にも、退職や休職といった可能性を考えながら、計画的な採用と受注を行いましょう。

また、顧問契約を行えば長期的に顧客と関わる必要がある点にも注意が必要です。気が乗らないような案件の契約には慎重になりましょう。

8. 既存顧客との関係も大切に

顧客との関わりを大事にしていれば、仕事ぶりを評価してくれた顧客が別の顧客を紹介してくれる可能性があります。顧客にはマメに連絡したり、ちょっとした困りごとを伺ったりと、 常に丁寧な対応を心掛けましょう。

開業税理士は顧客の要望に応じて事務所のルールを柔軟に変更できるメリットもあります。自分の判断で以下をはじめとする対応を行うなど、顧客により良い価値を提供しましょう。

・顧客にあわせて夜や土日に打ち合わせを行う
・コンサルティングを提供する
・必要に応じて弁護士や社会保険労務士などの人材を紹介する

9. オンラインによる集客を行う

ホームページやブログ・SNSなど、オンラインによる集客に力を入れる税理士も増えてきました。税理士業界は年齢層が高く、体質が古い傾向にあることから、オンラインでの集客を行うことで競合と差別化を図れる可能性があります。

ホームページはインターネット上にある名刺のような位置付けであり、開業にあたって準備をしておきたいものの1つです。外注して作成してもらう方法のほか、既存のパッケージプランを利用して自分で作成する方法もあります。

また、税理士と税理士を必要としている顧客を結びつけるためのマッチングサイトも活用できます。費用を抑えて集客することができるため、開業時には利用するといいでしょう。

10. 数年後のビジョンを考える

開業税理士として長く活躍するためには、長期的なビジョンを検討することも大切です。

特に今後規模を拡大したいと考えている場合には、10年程度の長さのある計画表を作成することをおすすめします。以下のポイントなどを参考に「3年後にはこうなっていたい」「5年後には本格的に規模を拡大したい」など、ざっくりとしたイメージを記入しましょう。

・売上高
・職員数
・事務所の拠点
・ターゲット像
・サービス内容
・プライベート

今後のビジョンを検討することで今やるべきことが明確になります。税理士として充実したキャリアを歩むためにも、長期的な視点で計画表を使ってみてはいかがでしょうか。

まとめ

税理士は専門性が高く魅力的な職業ですが、独立開業して必ずしも成功するとは限りません。自身が納得できる形での開業を行うためには、開業前の準備や人脈作り、日頃の情報収集などが大切です。開業前から万全の準備を行うことで経営を軌道に乗せ、独立開業を成功させましょう。