税理士は専門性が高く人気のある資格ですが「独立しても食えない」と言われることがあります。

しかし、取り組み方次第では税理士として独立して高収入を目指すことも可能です。独立によって自分の裁量で物事を決定できるようになり、楽しく充実した生活を送っている税理士も少なくありません。

本記事では、税理士が食えないと言われている理由や、独立開業に成功するための方法などについて解説します。

独立した税理士の年収

独立した開業税理士の年収は、社員のときをはるかに凌ぐ金額を稼ぐ方もいれば、低い金額の方もいます。独立すると、給料のように決まった金額がもらえるわけではないので、人によって差が大きくなります。

公認会計士・税理士両方を入れた年収ですが、10名以上の組織で働く人の平均年収は以下のとおりです。独立する場合は、以下の金額を上回ることがひとつの目標になるでしょう。

年齢平均年収(万円)
全体746.6
20〜24歳475.5
25〜29歳568.0
30〜34歳619.2
35〜39歳722.8
40〜44歳794.7
45〜49歳819.6
50〜54歳868.2
55〜59歳1071.9
60〜64歳598.8
65〜69歳661.1
70歳〜629.4

参照:令和4年賃金構造基本統計調査

税理士が独立して食えないと言われる理由7個

税理士はなぜ食えない資格だと言われるのでしょうか。理由についてひとつずつ解説します。

1. 税理士が多く競争が激しい

安定性や高収入を狙って税理士資格を取得する人は多く、税理士の登録者数は毎年増加しています。

それに対して、顧客となる中小企業は減少する傾向にあります。顧客の取り合いとなり、思うように契約を獲得できない税理士が発生している背景があります。

2. 顧問先の新規開拓が難しい

税理士は顧客と顧問契約を結んで業務を行うことが主であり、一度締結するとその後は基本的に契約を継続させます。

特に、長年契約を継続してきたベテラン税理士と顧客は、特別な理由がない限り顧問契約を終了することはありません。税理士は定年がなく、高齢になっても業務を続けている人がたくさんいます。

このような背景から、若手の税理士が仕事を確保することは難しく、新規参入を妨げているものと考えられます。

3. 顧問料が安い

独立したての税理士や若手の税理士が、安さを売りにして仕事を獲得することがあります。しかし、安さに頼って仕事を獲得すると、低価格競争に巻き込まれ、思うような売上を得られません

安さを打ち出した経営を行うと、目標の売上を稼ぐために多くの仕事をしなくてはならず、疲弊してしまいます。

安さではなく、独自の価値を生み出し、サービスの魅力を上げて差別化を図れないと、他の税理士事務所との価格競争が続くことになります。

なお、開業して間もない頃に実績を得るために意図的に低価格に設定することもありますが、一時的なものとして割り切るのであれば、戦略としてありです。

4. 経験豊富な税理士がすでに多い

前述した通り、独立した税理士には定年がなく、本人のやる気がある限り仕事を続けられます。実際に、税理士のうち60代以上の人が占める割合は多く、ベテランの税理士が数多く活躍しています。

ベテランの税理士は長年の業務によって経験やノウハウが豊富であり、顧客からの信頼も厚いと考えられます。そのような税理士の方が仕事を獲得しやすく、若手の税理士は仕事を獲得しにくい現状があります。

5. 紹介だけでは成り立たない

独立後、これまでの顧客や仕事関係の人に独立を知らせて紹介してもらい、顧客を増やすことがあります。しかし、継続的に顧客を獲得できることは少なく、人脈がないと思うように紹介してもらえません。

紹介だけで十分な売り上げを確保できない場合、自ら営業活動を行い、顧客を獲得することが求められます。

本来の業務と並行して営業活動を行わなくてはならず、これまでの仕事とは異なる領域になるため、上手くいかないことも多々あるでしょう。

6. クラウド会計やAIの台頭

近年の会計ソフトは、税理士以外の人でも使えるように設計されています。日頃の入力作業や、確定申告書の取りまとめを自ら行うという人も増えてきました。

また、インストールしなくても手軽に使い始められるクラウド型の会計ソフトや、入力した内容に応じて自動的に仕訳を行うAIを搭載した会計ソフトも当たり前のものとなりました。

以前は税理士など一部の人しか行えなかった業務も、中小企業の経営者や経理、個人事業主などが自ら担当しやすくなっています。

人間が行わなくてはいけない業務自体が減少していることから、単に申告だけを行う税理士に対する需要は減少しているものと考えられます。

7. 他の士業と仕事の取り合いがある

公認会計士は、公認会計士の試験に合格すれば、税理士の資格も申請・登録ができます。公認会計士試験では租税法の科目を選択できるため、税理士としての業務も問題なくこなせる人がたくさんいます。

公認会計士は税理士と同じく、安定性や専門性といった観点から人気の資格で人数も増加しています。

独立するときに税理士登録を行い、税務に関する仕事を受注する公認会計士も多く存在することから競争相手となります。このような背景から、税理士業界の競争はより激しくなっています。

税理士の独立メリットは?楽しい?

税理士として独立すると、働く時間や場所、付き合う顧客などを自分の責任で選べます。自分の好みに応じて働く環境を整えられるため、プライベートとの両立がしやすく、快適に働きやすい点がメリットと言えるでしょう。

自分の興味に応じた仕事を受注できる点もメリットの1つです。「仕事の分野を絞って専門性を高める」「仕事を絞らずにオールマイティに受注する」など、自身のキャリアや方針に沿った選択ができます。

税理士として独立すると、責任感からストレスを感じる方がいることも事実です。しかし、自分の責任で行動することが好きな方は、独立によって楽しさや充実感を得られる可能性が高いでしょう。

税理士が独立して生き残る方法6個


税理士の独立を成功させるための方法を紹介します。

1. 差別化できる専門スキルを磨く

専門性を高めることで他の税理士と差別化する方法があります。「相続が得意」や「不動産オーナーの顧客が多い」など、得意分野を打ち出して専門性をアピールしましょう。

自分の得意分野はホームページやWeb広告などで集客する際にアピールポイントとして使います。専門性を明確に打ち出すことにより、狙った顧客の集客がしやすくなります。

また、特定の分野に特化することで、税理士としての価値を高く感じてもらいやすくなり、他の税理士と比較されにくくなります。

2. 顧問契約以外のサービスも用意する

会計ソフトの使い勝手が向上することにより、単に帳簿の入力や申告を行う税理士は価値を感じてもらいにくくなっています。

税務調査対策、経理業務の効率化支援、経営改善支援、補助金獲得支援など、コンサルタント業務にも対応できることが望ましいです。

このような業務は継続的に提供する定額サービスではなく、スポットサービスとしても提供することができます。

また自分の顧客だけではなく、新規の見込み客にも提供でき、見込み客の悩みをうまく解決できれば、スポットの終了後に顧問契約に応じてくれる可能性もあるでしょう。

そしてスポットサービスの終了後、顧客に満足してもらえた状態であれば、競合との価格競争に巻き込まれず高い顧問料で契約できることもあります。

3. 営業力をつける

これまで税理士として企業で働いていた場合や、資格取得後に直接開業する場合は、思うように営業できないことがあります。

しかし、税理士事務所を運営していく中では、営業力が欠かせません。相手に信頼してもらうためのコミュニケーション能力や、自分のサービスをアピールするためのプレゼンテーション能力を身につけていくことが望ましいでしょう。

ホームページやSNS、Web広告などから顧客を獲得することも可能です。Webマーケティングの手法や最新のトレンドなどを把握することで、効率的に集客を行いましょう。

4. 集客の仕組みを整える

「無料相談会を開催して将来的な契約に繋げる」「ホームページの問い合わせを増やして契約に繋げる」など、税理士の集客方法はさまざまです。

集客の仕組みを整え、継続的に運用すれば、新規の相談が安定します。税理士業務と並行して集客が行いやすくなり、効率的に業務を進められるでしょう。

また、税理士を続けていくと「こうすれば顧客が獲得しやすい」といった自分の王道パターンが見つかることがあります。複数の集客方法を試し、自分に適したものを探してみましょう。

⇒参考:税理士の集客方法14個

5. 資金に余裕をもつ

開業してすぐの頃は仕事がなく売上が少ない可能性があるため、その間の資金は余裕を持って準備しておくことが重要です。

顧客を獲得できなくても、オフィスの家賃や生活費などは発生します。1年程度は収入がなくても生活していけるよう、あらかじめ貯金しておきましょう。

十分な資金を準備しておくことで、仕事がない期間でも焦らず営業活動を行えます。軌道に乗るまでのことを考え、必要な資金は多めに見積もりましょう。

6. 質の良い人脈を作る

日頃から周囲の人を大切にすることも欠かせません。友人や知人はもちろん、勤務時代の同僚など、関わる人を大切にしていれば、思わぬところで顧客を紹介してもらえることもあるでしょう。

また、高齢のため近々引退すると思われる税理士と仲良くなることも有効です。引退時に顧客を譲ってもらえる可能性があります。

まとめ

業界を取り巻く事情やデジタル技術の進歩といった理由によって「税理士は食えない」と言われることがあります。

しかし、独立によって楽しく充実した生活を送っている税理士がいることも事実です。仕事を受注できるように入念な準備を行うことで、税理士としての独立開業を成功させましょう。